養育費の基礎知識

夫婦が離婚しますと、その夫婦間の子供は一方の親元(親権者又は監護権者)で生活し、他方の親とは生活を異にすることが一般的です。

しかし、親権者にならなかったとしても、また子供と一緒に生活してないとしましても、親である以上は子供を扶養する義務があります。

この未成熟子(子供が社会人として自立するまでの者で、未成年者とは必ずしも一致しません)への扶養義務に対する金銭が養育費です。

扶養義務には生活保持義務と生活補助義務があり、生活保持義務は自分の生活レベルを下げてでも要扶養者に対して自分と同程度の生活をさせなければならない義務で、生活補助義務は自分の生活に余力がある場合に要扶養者に対して援助しなければならない義務です。

そして、親の子供に対する扶養義務は生活保持義務です。

つまり、養育費は自分の生活に余力があれば支払えばいいという性質のものではなく、子供が生活水準の高いほうの父母と同等の生活を維持できるだけの金額を支払う必要があります。

なお、稀に勘違いしている人がいるのですが、養育費は子供の生活・教育等に対して支払われる金銭ですから、例え養育費の振込口座が子供の名義ではなく、養育費を受け取る側の親の名義であったとしても、離婚した夫婦の一方が他方からもらえるお金というわけではありません。

養育費は子供の生活や教育等のために使われるべき金銭であって、親が自分の生活費に使う、趣味に使うなど、養育費を受け取る側の親が自由に使えるお金ではありません。

親権者との関係

父母の婚姻中は、父母が共同して親権を行使しますが、離婚すると父母のどちらか一方を親権者としなければなりません。

そして、離婚によって夫婦の縁は切れ、全くの赤の他人になりますが、父母が離婚したからといって親子の縁が切れるわけではなく、未成熟子に対する扶養義務がなくなるわけではありません。

これは、親権者であろうが、親権者でなかろうが同じことです。

離婚によって父母のどちらか一方が親権者と定められても、それぞれの経済力に応じて子供の養育費を分担すべきものです。

民法820条に「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、その義務を負う」とあり、子供の衣食住等について世話をすること、監護養育に必要な居所を指定すること、職業許可、懲戒などが認められています。

ですから、親権者には監護教育の義務があります。

対して、民法766条1項に「夫婦が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護に必要な事項は、その協議でこれを定める」と規定しており、養育費の問題もこの監護に関する取り決めです。

つまり、親権者の監護教育の義務と、それに必要な費用(養育費)の負担は別個の問題であることになりますので、離婚によって父母の一方が親権者と定められたときも、それぞれの経済力に応じて養育費は負担すべきもので、その負担の義務は親権者であるかどうかに関係ないということになります。

また、離婚後に親権者にならない親や、子供と一緒に生活をしない親であっても、親権者になった親や、子供と一緒に生活している親よりも扶養の義務が軽くなるものではなく、子供の養育費は親権者であるが故の負担ではないとされています。

よって、特に男性に多い「離婚後は親権者ではなくなるから、養育費を支払う必要はない」という主張は無茶苦茶なものであり、論外と言わざるを得ないものです。

  • ※参考判例 (福岡高決昭52・12・20)
  • 両親は、離婚後においても親権の有無にかかわらず、それぞれの資力に応じて未成熟子の養育料を負担すべき義務を負うものであって、親権者となった親が第一次的に扶養義務を負担すべきであると解することはできない。

支払わないとの約束

「とにかく一日でも早く離婚したい」「子供だけは自分が引き取りたい」「夫に養育費のことを話せば暴力をふるわれるかも」などの理由で、離婚をする際に「自分が親権者になるかわりに、養育費については一切請求しません」との約束をすることがあります。

ところが離婚からしばらくすると「生活が苦しくなった、やっぱり養育費をもらいたい」と考えることもあるかと思います。

そこで、離婚時において「養育費は請求しない」と双方が合意したにも関わらず、後日養育費を請求することができるのでしょうか?

父母の間で養育費に関する合意をした場合、扶養の程度や方法についての合意であると考えることもできますし、離婚に際しての子の監護についての合意と考えることもできます。

そのため、いずれにしても養育費を請求しないという合意をした以上は、この約束は有効であり、原則として養育費の請求はできないことになります。

しかし、養育費は子供のために支払われる金銭ですから、父母間にこのような養育費を請求しないという合意があることによって、著しく子供に不利益で、子供の福祉を害する結果に至るとき、また事情の変更があった場合には、以下のような方法で養育費を請求することが可能です。

子供から扶養料を請求する

子供は自らの権利として、親に対して扶養を請求する権利を有しています。

そこで、養育費を請求しないという合意があったとしても、それは父母の間で効力を持つにすぎず、子がこれに拘束される理由のないこと、また母が子を代理して扶養料請求権を放棄したと考えるとしても、扶養を受ける権利は処分することはできないので、このような合意はそもそも無効であるとし、母が子の法定代理人として、子を代理して扶養料請求をすることを認めた審判例(東京家審昭38・6・14)がありました。

しかし、一度は養育費を請求しないということについて合意しているのに、親権者が子の法定代理人として扶養請求することを無制限に認めることはおかしなことになります。

そのため、現在の審判例においては、父母間の養育費負担の合意内容が著しく子供に不利益で、子供の福祉を害する結果にいたるとき、また、合意後に事情の変更があり、合意の内容を維持することが実情に添わず、公平に反するに至った場合には、子供の扶養料請求が認められるとされております。

親権者から養育費の協議を変更、取り消しする

子供から扶養料を請求するのではなく、養育費を請求しないという合意の変更、取り消しを求めて、親権者から他方の親に対して養育費を請求する方法があります。

その根拠として、民法880条の扶養の順位・程度・方法について、協議または審判があった後に事情の変更があったときには、家庭裁判所はその協議又は審判の変更または取り消しをすることができると定めているからです。

事情の変更があるとは

養育費を請求しないとの合意があったとしても、その合意当時とは事情の変更があるとして、親権者から他方の親に対して養育費の請求を認められるのは、合意からある程度の期間が経過していること、合意当時と比較して生活費や教育費が増加していること、父母の経済状況の変化していることなどが判断要素となります。

なお、上記のように「養育費を請求しない」という合意は有効であり、原則として後日に養育費の請求はできないわけですから、「とにかく一日でも早く離婚したい」「子供だけは自分が引き取りたい」「夫に養育費のことを話せば暴力をふるわれるかも」などのお気持ちも分からないではありませんが、安易に約束すべきではないと言えます。

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